日記もどき
無印で、金木犀の匂いのお香が売ってたんですよ。
それがまぁめちゃくちゃいい匂いで、部屋で焚いたらさぞかし気分が良かろうと思ってマスクで隠れた口をにやにやさせながらレジに持っていこうとして、ふと思いとどまって手を止めたんですね。
っていうのも、私は金木犀が好きというより、金木犀の匂いに包まれて、体全体で秋を感じるあの感覚含め好きなんですよ。不意打ちで鼻をかすめて、無条件に切なくなったり幸福感が溢れ出したり、とにかく一瞬自分の感情のコントローラーを誰でもない誰かに握られたような感覚にさせるのが季節の匂いだと思ってて。
その中でもとりわけ夏の夜の匂いと金木犀の匂いは格別なんです。もちろん春の陽気な匂いも冬の朝の匂いも好き。
ひとりでいることが妙に心地よくなって、去年の今頃はこうだったとかああだったとか、匂いが勝手に記録した思い出を思い出したりする時間がくるおしいほど好きなんです。
そう考えると、私はここで金木犀のお香を買って、焚いて、次の秋を迎え、街中で不意に金木犀の匂いを感じたときどう思うか考えると、
「あ、部屋の匂いだ」
であり、そのお香に飽きたときにはもう、「うわ、部屋の匂いだ」になるわけじゃないですか。
金木犀が好きだからこそ、私は金木犀の匂いだけは買うべきではないのではないか、と思いつつ、いや純粋に匂いが好きなのになにその「好きすぎて付き合えない」みたいな理由。匂いってなかなか自分が良いと思えるものに出会えないのになにその理由。意味わかんない。と葛藤してました。
結果買わず、代わりに葛藤してる間ずっと目の前にあった布マスクをなんとなく買ったらめちゃめちゃ肌触りよくて顔にフィットして、むしろこれに出会うための葛藤だったんじゃないかとすら思いました。
無印良品のまわし者みたいになってしまった…